【2023年1月号】当たり前でない日常
2023/02/06
社長 稲畑 勝太郎
早いもので、新型コロナウイルスのパンデミックが発生してから3度目の年明けを迎える。この原稿を書いている12月上旬の時点で、日本国内ではまだ1日当たり12万人前後の新規感染者が発生しており、事実上「第8波」の只中にあるが、重症者数が比較的少ないこともあり、新型コロナに関する報道はニュースのヘッドラインから姿を消しつつある。海外からの入国制限も段階的に制限が緩和され、秋ころから外国人観光客の姿も目に見えて増え始めた。丸3年の時を経て、ようやく世の中は「当たり前の日常」を取り戻しつつあるように見える。
感染症対策の検証を
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」のは世の常とはいえ、この3年を振り返って疑問に思うことはいくらでもある。まず、「検疫と隔離」は感染症対策の基本だが、何故わが国では台湾のような徹底した水際対策が取られなかったのか。また、人口当たり病床数では世界のトップクラスである日本で、医療崩壊の危機が叫ばれることになったのはなぜだったのか。また、ノーベル賞学者・大村智博士が中心となって開発したイベルメクチンは、インドの例に見るように一定の効果が推定されるにも拘らず、何故WHOは強く推奨せず、厚労省も承認を見送ったのか。さらには、コロナワクチンにはリスクを上回るメリットが本当にあるのか…等々。今回に限らず、新たな感染症が発生したときに、ウイルスの性質が明らかになるまでは試行錯誤が繰り返されるのはやむを得ないと思うが、一定の期間を経た後の検証は必要だろう。12月に厚労省はCOVID-19の感染症法上の位置づけを「2類相当」から「5類」に見直す検討を進めることを公表した。「いまさら」の感は拭えないものの、次のパンデミックに備えて、このような検証と検討が進むことを期待したい。
グローバルな潮流の反転「経済安全保障推進法」
ところで、パンデミックの期間を経て改めて注目されたのが「経済安全保障」という概念である。わかりやすい例でいうと、パンデミックの当初にマスクがドラッグストアの店頭から消え、すでにマスクの大半が国内で生産されていないことに気付かされた。いまだに影響が残っている半導体不足の問題も然り。グローバル経済が進みすぎた結果、国民が必要とする生活物資を特定の他国に依存しすぎる状態になっており、この状態を見直そうという動きである。実際には、パンデミック以前の米中経済摩擦のあたりから始まっている動きだが、パンデミック下でのサプライチェーンの混乱という大義名分も加わって、わが国でも昨年5月に経済安全保障推進法が成立した。詳しくは内閣府のウェブサイトをご参照頂きたいが、内容は4本柱で構成されている。

1番目が「重要物資の安定的な供給の確保」で、半導体、医薬品、蓄電池材料、鉱物といった物資のサプライチェーンの強靭性を国がチェックするというもの。2番目が「基幹インフラ役務の安定的な提供の確保」で、電力、通信、金融といった重要インフラを担う事業者が機器を導入する際に国が事前審査を行うというもの。3番目が「先端的な重要技術の開発支援」で、これには支援と共に重要技術に関わる人間へ守秘義務を課すことも含まれる。4番目は既に海外では51か国が導入済みの制度だが、安全保障に関わる特許出願を非公開にできる制度である。年明けから堅い話が続いて恐縮だが、この法律の成立は、これまで自由貿易を是として推進してきたグローバルな潮流が反転する象徴的な出来事だと思うので、あえて詳しく書かせていただいた。ロシアによるウクライナ侵攻が欧州にもたらした影響や北東アジア地域での地政学的リスクの高まりといった現実を顧みれば、このような動きが出てくるのは必然ともいえるが、運用にあたっては民主主義の原則である「基準の明確さ」と「プロセスの透明性」が求められるのは言うまでもない。
改革や新施策も検証を
さて、この新年号が発刊される年明けを、東京本社に勤務する社員の皆さんは仮移転先のオフィスで迎えることになる。新たな職場に対する期待も大きい一方で、フリーアドレス制の採用をはじめ、新たなワークスタイルに対する不安もあるかもしれない。それでなくても、特にこの1年余りは、ガバナンス体制の変更、それに伴う決裁基準変更や、定年延長、社内公募制度・在宅勤務制度の導入、新入社員研修制度の変更といった人事制度面での改革などが相次いだ。これらの改革の目的・趣旨が社員各位に正しく伝わっているのか、また趣旨通りの効果を生んでいるかについて、一度立ち止まって検証することが必要だと感じている。また、「価値ある存在として常に進化を続ける」上で、変えてはならない当社らしさとは何なのかについても、改めていろんな人と(できる限りリアルで)議論してみたい。
この3年間に「当たり前」と思っていた日常が決して当たり前ではない、言い換えれば「有り難き」日々であったことに気付く経験を多くの人がしたことと思う。いま、かつての日々が戻りつつあることの「有難さ」を噛み締めつつ、思いを一つにして「NC2023」の最終年度に臨みたい。
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